歌舞伎町小町に出会った
2010年のクリスマス、歌舞伎町の中心にある大久保公園で、私たちは、巨大なクリスマスツリーを作っていた。
公園を訪れる、子ども、大人、カップル、中学生。様々な人が、思い思いの楽しいメッセージを書き、メッセージが書かれたカラフルなブロックを積み重ねて、素敵なクリスマスツリーができる!
コミュニティアート城「歌舞伎町クリスマス★ガーデン」そんな楽しい催しだ。
楽しいアートのワークショップの場に、一人のおばあさんが来てなにやら怒りだした。
「公園のトイレが使えない!」と怒っていた。
ワークショップで使う電源を、トイレの横からお借りしていた関係で、杖をついた、体が不自由なおばあさんが通りにくい。そう言って怒っている。
私たちは、丁重に謝り、電源ケーブルを片付け、おばあさんは、トイレが使えるようになった。
小柄でヨタヨタした、おばあさんだった。
さて、そのおばあさんが、トイレに入って小一時間たっても出てこない。
寒い12月である。
心配になった私たちが、公園を管理しているスタッフに伝えたところ、公園スタッフが、トイレの中に声をかけた。
体の自由が利かないおばさんは、小一時間たって、トイレから出てきて、また怒りだした。
「トイレに長く入っていちゃいけないのかい!」
もちろんそんなことはない。
私たちは、「いえいえ。この寒さだし、おばあさんが中で具合でも悪くなってはいないかと心配しておりました」
そう言った。
これを聞いたおばあさんは、さらに怒りだした。
「嘘を言うんじゃないよ!あたしのことを心配する人なんて、だあれもいやしない!」
急に芝居がかったおばあさんのセリフ・・・。
寒い中、作業をして疲れはてていた私たちは、正直困って、というか、優しく相手になる余裕もなく、無言になってしまった。
空気が凍りついた。
「あたしのことを心配する人なんて、だあれもいやしない!」というおばあさんに、どうして、「そんなことはありませんよ。おばあさんが風邪でも引いたら大変だと思っていたんですよ」、そう言えなかったんだろうか。
みんなでつくるコミュニティアート。
誰でも参加できるクリスマスガーデン。
こうした美しい言葉が、足元から崩れ去る瞬間であった。
そう、彼女は、クリスマスガーデンに現れた、小町だったのだ。
お能の「卒塔婆小町」に出てくる、偉そうな僧侶を言い負かす、あの老境の小野小町。
卒塔婆小町
乞食の老女が卒塔婆に腰掛けているのを、高野山の僧が見咎め、説教を始めるが、逆に法論でやり込められる。驚いた僧が彼女の名を聞けば、かつては才色兼備を謳われた小野小町の成れの果てだという。彼女は自らの来し方を語り始めるが、彼女にあこがれて通いつめながらついに願いを果たせなかった四位の少将の霊にとりつかれ、苦しめられる。Wikipediaより
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%92%E9%83%BD%E5%A9%86%E5%B0%8F%E7%94%BA
コミュニティアートというものが、まだまだ自分にとって、薄っぺらいものであったと喝破してくれた彼女を、「歌舞伎町小町」と呼んで、我が身を深く反省したいと思った年の瀬であった。
ホント、やけに芝居がかった小町だったんですよねー。
“花のいろはうつりにけりないたずらに わが身世にふるながめせしまに”小野小町
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